大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和34年(ラ)28号 決定 1959年4月23日

抗告人 株式会社泰平商事

相手方 古林正治

主文

原決定を取り消す。

本件を神戸地方裁判所龍野支部に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。

記録によると、原裁判所は、本件につき昭和三四年一月二九日相手方を債務者、姫路市都市計画事業復興土地区画整理事業施行者姫路市長を第三債務者とし、相手方が第三債務者から支払を受くべき補償金にして抗告人の有するとする債権額五〇〇、八五五円に達するまでの金額の債権に対し差押及び取立命令を発し、右命令正本は、同年一月三〇日相手方及び前記第三債務者に送達されたこと、しかるに、原裁判所は、同年二月三日職権で右債権差押及び取立命令を取り消し、抗告人の本件申立を却下する旨の決定をしたことが明らかである。そうすると、右差押命令及び取立命令は、相手方及び右第三債務者に送達されることによりその効力を生じたものというべく、原裁判所は右各命令が効力を生じた後職権でこれを取り消したものというべきである。しかしながら債権に対する強制執行は、執行裁判所の差押命令によりするものであるから、裁判所が差押命令及び取立命令を発するのは、債権に対する強制執行の方法であり、これに対しては民訴法第五四四条第一項により利害関係人は異議の申立ができ異議に対する裁判に対しては更に即時抗告ができるのであつて、差押及び取立命令は訴訟指揮に関する裁判ではないから、一旦その効力を生じた以上異議又は即時抗告がない限り右命令をした裁判所は右裁判に拘束され、職権によりこれを取り消すことはできないものといわなければならない。そうすると、原裁判所が、適法な異議の申立がないのに昭和三四年一月二九日なした前記債権差押及び取立命令を職権で取り消し、抗告人の本件申立を却下したのは違法であるから、これを取り消すべきものとする。しかし、記録によると、相手方は、昭和三四年二月二日附上申書(記録二八丁)を原裁判所に提出し、本件差押及び取立命令が不当である旨主張していることが明らかであるから、原裁判所は、相手方が右上申書により民訴法第五四四条第一項に定める異議の申立をする趣旨であるかどうかを釈明し、右異議の申立をする趣旨であるならば、相当印紙の貼用を命じ、相手方がこれに応じないときは右申立を却下し、印紙を貼用した場合には、異議の理由があるかどうかを審理の上相当の裁判をすべきである。

従つて、本件は原裁判所に差し戻すのが相当であるから、これを差し戻すこととする。

よつて、民訴法第四一四条第三八九条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 熊野啓五郎 岡野幸之助 山内敏彦)

抗告の趣旨

原決定を取消すとの裁判を求めます。

抗告の理由

執行裁判所がひとたび債権差押及取立命令の申請を理由あるものと認め、これを認容する裁判をなしその裁判書が第三債務者に送達せられ、その効力を発生した以上自らなした確定的な判断の表示たる右裁判に拘束せられ職権を以つて自由に右裁判を取消すことはできず、もし右裁判を取消乃至変更するとせば、当事者の一方からなした即時抗告に基く再度の考案によらなければならない。

しかるに原裁判所は即時抗告の申立がないのに右裁判を取消したので原決定は法規の適用を誤つたものである。

よつて民訴五五八条により本件即時抗告をする。尚原決定中に債権差押及取立命令却下の理由を明示しておらないので本抗告において、不服理由を示すことができないが却下理由が判示されればそれについて陳述する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例